
取材にご協力いただいた叶さん
株式会社 電通東日本のIT企画部にて、ITガバナンスや情報セキュリティ、IT戦略の立案を担う叶さんに、同社におけるマイクロソフト オフィス スペシャリスト(以下、MOS)導入の背景と、生成AI時代におけるMOS取得の意義についてうかがいました。
また、IT企画部に所属される一方で「dentsu Japan AIマスター」としてAI活用を推進される立場から、リアルなお話も併せてお聞かせいただきました。
電通東日本でMOS取得を推奨するようになったのは、どのような経緯があったのでしょうか?
きっかけは、人事担当者からIT企画部への相談でした。「現業部門からパソコンの基礎スキルをもっと底上げしてほしいという声が上がっている。どうすればよいか」というものです。
実は私とMOSの付き合いは学生時代にまで遡ります。学生時代にパソコンスクールでインストラクターのアルバイトとしてMOSを教える立場になったときのことです。それまで自分はExcelやWordを使えていると思っていたものの、きちんと学びきれていなかったことを痛感した経験がありました。そこから改めてMOSで学び直したことで、「体系的に学ぶとはこういうことなのか」と実感したのです。
その後、社会人となり、ITの現場に身をおくと、Officeが大きく刷新されるたびに「どこから学び直せばいいかわからない」という声が上がる場面に何度も出会いました。体系的に覚えた知識が無に帰すわけではないのですが、新しいOfficeをきちんと使いこなすには、やはりMOSで随時学び直すのが一番早いのです。
社内の基礎スキル底上げの手段としてMOSを選んだ理由は、「研修で教えて終わり」にしないためです。実際にパソコンを操作しながら模擬試験を繰り返し、試験後には即時にスコアレポートが確認でき、合格認定証が付与される。この一連の成功体験のプロセス自体が、体系的な学びを身体に覚えさせてくれます。学生時代に自分自身がそのプロセスで衝撃を受けた経験があるからこそ、迷わず「MOS取得まで」という提案ができました。
実際にどのような進め方でMOS取得の教育を進めているか教えてください
最初は電通東日本の新入社員向けにスタートしたのですが、グループ各社から「うちの従業員も受けさせてほしい」という声をいただくようになりました。今では複数社の新入社員・若手社員を対象に教育を行う年度もあります。過去には既存の管理部門向け研修も実施しました。
実施形式は、基本的には会議室に集まっての集合研修にこだわっています。MOSは座学というよりも手を動かして覚えるものなので、講師の画面を見ながら自分の画面を少しでも操作し、比較して気づきを得ていく体験が大事だと思っています。研修自体はインプットとアウトプットを繰り返す構成で、さらに学習の定着を図るため、オンライン動画学習(TWD式学習術)も補助教材として導入しています。
また、どの講座でも必ず最初のオリエンテーションで、資格を取得することや学ぶことの意義を伝えています。その際に受講者に手に取って回覧してもらうのが、私自身のMOSのスコアレポートや過去のIT試験の合格証をまとめたクリアファイルです。このファイルは、私にとって自分の歴史そのもので、学び続けてきた記録が一枚一枚積み重なっています。これから社会人として経験を重ねていく新入社員のみなさんには「自分もこういう歴史をつくっていくんだ」という期待感と、「学び続けることには意味がある」ということを実感してもらえればと思っています。
MOSを導入されてから何か変化や効果はありましたか?
新入社員から「WordやExcelができなくて困っている」といった初歩的な相談が出ることがほとんどなくなりました。また、社内アンケートでは、MOSを学んだ新入社員のほぼ全員が「実際の業務に非常に役立っている」「先輩社員よりも自分のExcelスキルが優位であると感じる」と回答していて、自身のスキルに自信を持っています。この基礎スキルこそがCopilotなどの生成AIを使った業務においても、大きな効果をもたらしていると考えています。
AIやCopilotが普及する今だからこそ、MOS取得の意義についてどのようにお考えですか?
社内には、特別なプログラミングの知識を持たなかった若手社員が、Copilot Chatとの2,000回を超える壁打ちを通じて、1カ月もかからずにExcel VBAで予算分析シミュレーターを完成させた事例があります。この事例から、AIとのやり取りの総量、すなわち積み上げたトークン数がAI活用力を表すひとつの指標となる一方で、その成功の裏に「MOS取得で得た基礎知識」があったからこそ、無駄な試行を減らすことができたと分析しています。
たとえばMOS Excelを学んでいれば、「セル」「セル番地」「絶対参照」「相対参照」という言葉を使えます。しかし前提知識がないと、AIへの指示が「この枠のなかに入っている○○を××して」という解像度の低いものになってしまう。当然、AIも正確に応えにくい。IT部門の人間として言わせてもらえれば、これはインプットの品質問題です。ゴミを入れればゴミが出てくる、というのはコンピューターの世界ではGIGOと言って、古くからある話で、AIも例外ではありません。
体系的な基礎知識を持ち、AIとの壁打ちを根気強く続けるという「二刀流」が、確かな成果につながる大切な要素だと感じています。
最後に、MOS導入を検討している企業の担当者やこれから受験しようとしている方へメッセージをお願いします
MOSをネットで検索すると、第二ワードに「意味ない」というサジェストが出てくることがあります。でも私は、試験に価値が見いだせないのではなく、受験者やこれから学ぼうとしている方が、MOSの「使いどころの意味を知らない」だけだと思っています。
多くのビジネスパーソンが日々使うアプリといえば、Word、Excel、PowerPointです。でも実際には、それらの機能のほんの数%しか使っていないのではないでしょうか。毎日同じ作業を繰り返しながら「自分は使いこなしている」と思っているユーザーでも、新機能のことはまるで知らない。AIに聞こうとしても指示の言葉が出てこなくて、何も変わらない――、そういう状況に陥っていることが多いものです。

そんなとき、MOSで体系的にExcelを学び、最新機能を知ることができたらどうでしょうか。誰かが覚えた新機能が職場に伝播したらどうでしょうか。AIを使った業務改善は素晴らしいことですが、そのために本当に必要なのは、社員が自律的に学習することを促し、効果的に伝播させる布石を置くことだと思っています。IT部門の仕事はシステムを整えるだけではなく、人が使いこなせる環境をつくることでもある。MOSはその布石の一つとして、今も有効だと確信しています。
導入を検討されている企業の担当者様は、ぜひ一度ご自身でテキストを手に取ってみてください。「これは確かに必要だ」という実感が得られると思います。
※掲載内容は、2026年3月取材時のものです。



















