企業にとって人材を資本としてとらえ、その価値を最大限に引き出すことで企業の価値を高める「人的資本経営」の流れが加速しています。2022年11月、金融庁が公開した「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案によると、2023年3月期決算以降の有価証券報告書に、人材育成や社内環境整備の方針・指標・目標などの記載が必須事項として位置づけられました。
など、上場企業の担当者の皆さまが迷いやすいポイントを解説しながら、実際に自社の人材育成方針をどのように位置づけ、対外的に開示していけば良いかを詳しく解説していきます。また、DXやリスキリングの一環としてお問い合わせの多い資格試験もご紹介。学習から資格取得を通じた具体的なデジタル人材育成と開示案をご案内します。
「人的資本」とは、人材を管理対象や資源としてではなく、適切な環境を提供すればその価値が伸びる「資本」としてとらえる考え方のことです。また、その価値を最大限に引き出すことで企業価値向上につなげようとする経営のあり方を「人的資本経営」といいます。人的資本経営を通じて「人への投資」に積極的な企業には、世界中からの資金が集まりやすいとされ、企業の次なる発展に繋がることが期待されています。
投資家向け
人的資本の状況を定性的・定量的に開示することで、経営戦略の実現性を示す
ステークホルダー向け
中長期的な成長力を示すことで、企業の信頼性を高める
求職者向け
企業が目指す方向性に共感する人を増やし 入社後に自分が働く姿をイメージしてもらう
従業員向け
自社の経営戦略とそれに紐づく人材戦略の理解を深める
持続的な企業価値向上につなげる
注目されている背景は、大きく分けて3つあります。
2018年、国際標準化機構(ISO)によって、人的資本に関する世界初の網羅的・体系的な情報開示のガイドラインとして国際規格「ISO30414」が発表され、この中で人的資本に関わる11領域の開示が求められました。
2022年11月、金融庁が公開した「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案では、2023年3月期決算以降の有価証券報告書に、人材育成や社内環境整備の方針・指標・目標などを記載することが必須事項として位置づけられたことで、多くの上場企業において、人的資本経営の取組みから情報開示までをトータルでアウトプットする必要性にせまられることとなりました。
日本のGDPに占める企業の能力開発費の割合は、他の先進国と比べて突出して低い水準にあることをご存知でしょうか。
OJTを含まない人材育成への投資額は、フランス・ドイツ・イタリア、英国の10分の1以下、米国と比較すると20分の1以下となっています。
資料出所:厚生労働省「平成30年度版 労働経済の分析・働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について」 P95
日本では、バブル崩壊後、人材育成を「コスト」ととらえがちになり、お金をかけることが難しい時代が長く続きました。しかし、VUCA時代と呼ばれる現代において経営戦略を実現するため、人材戦略とセットで改善策を講じなければ企業の価値が相対的に下降していくことにつながりかねません。そのような観点から、国内外の投資家からは「人的資本」に関する開示への期待が高まっています。
資料出所:三井住友信託銀行プレスリリース ”『ガバナンスサーベイ®2022』について”P3
図のように、現状では企業の認識と国内外投資家の期待には、大きなギャップがあります。例えば、人的資本に関する開示指標のうち人材育成に関する指標の開示については、投資家の69%が開示に期待を示しているのに対し、すでに開示を実施していると答えた企業は15%にとどまっています。このような期待とのギャップを埋めるために、企業はまず人的資本に対して「未来への投資である」とマインドセットを変えていく必要があります。あわせて、その具体的な取組みについて、投資家をはじめとするステークホルダーに対し、定性・定量の両面から情報を開示していくことが重要になっています。
では実際、企業として人的資本の情報開示に向けて、何から始めればいいのでしょうか?まずは、人的資本経営の流れと、人材育成に関する情報開示の基本的なステップをご紹介します。
経営環境が目まぐるしく変化する中において、持続的に企業価値を向上させるためには、パーパスに基づいた中長期計画と、それに向けた経営戦略が必要になります。また、その経営戦略を実現するための人材戦略を策定し、実行することが不可欠です。このステップの中で経営課題を抽出することが、以降のステップに向けて最も重要な要素となります。
人材面での課題を特定したうえで、課題ごとにKPIを設定し、その進捗をタイムリーに把握できるように整備します。また、このデータを、人材育成の担当部門だけではなく、事業部門や従業員個人にも適切に開示することで、社内での必要な人材の獲得や、従業員による主体的なリスキリングにもつながることが期待されます。
人材ポートフォリオの目指すべき姿を検討する際には、必要な人材像を具体的に定義し、「何年以内に〇〇人創出する」といったように、期間や人数を分かりやすく設定することで進捗の検証がしやすくなります。
将来的な目標や未来のあるべき姿からバックキャスティングする形で人材の要件を定義し、人材戦略を進めます。このためには、現状とのギャップを明確にしたうえで、人材の採用・配置・育成の方針を明らかにする必要があります。可能であれば、将来の経営戦略の選択肢を増やすような人材ポートフォリオを目指すことが理想です。
経営環境の急激な変化には、社員のリスキリングで対応します。積極的に学び直しを支援するためには、現在の労働時間の中で一定の時間をリスキルにあてる環境づくりが大切です。また、ひとりきりでのリスキリングには限界があるため、学びあいのコミュニティを社内につくることも有効な方法です。そして、リスキリングを経た人材に対しては、ポジションや報酬などによって十分なインセンティブが働くような仕組みを用意します。
有価証券報告書や統合報告書などで、人的資本の情報を開示します。具体的には、サステナビリティ情報の「記載欄」の「戦略」と「指標及び目標」に、人材の多様性の確保を含む人材育成の方針や、社内環境整備の方針およびその指標について記載します。
なお、2022年11月に金融庁が公開した「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案では、将来情報について、社内で適切に検討された事実や仮定等とともに記載されている場合には、記載した将来情報と実際の結果が異なる場合でも、直ちに虚偽記載には問わないことが明記されています。
この他にも、人的資本経営の実現に向けては、企業文化の変革、ダイバーシティ&インクルージョン、社員エンゲージメントの向上など多岐にわたる要素が必要です。一方で、「すでに一般的にコンセンサスのとれている資格試験を活用して、従業員のデジタルスキルの把握と開示を迅速にすすめたい」といったご意向をお持ちの人材育成ご担当者様も多いのではないでしょうか。
資格試験を用いた人材育成は、他の研修方法に比べて、ゴールを明確に設定しつつ、すぐに取り組みをスタートできるメリットがあります。経営課題の抽出のなかで、デジタル人材の育成や全社的なITリテラシー向上が課題として浮き彫りになった場合、デジタル関連の資格試験に取り組むことで、従業員の着実なスキル獲得と同時に、投資家を含むステークホルダーに対しては、定性・定量の両面から数値化した人材育成情報を提供できることにつながります。
自社の従業員が現在保有するスキルと、従業員に求めるスキルを可視化し、スキルギャップを埋めることが大切です。
「スキルの可視化って、どのように取り組めばいいの?」という企業様には「オデッセイ スキルチェック」をご提案しております。スキルチェックでは、マイクロソフトオフィスアプリケーション、コンピュータやインターネットの基礎知識に関する理解度をチェックすることができます。
一人ひとりが現在保有するスキルレベルの可視化はもちろんのこと、ご担当者様は、結果レポートにて、企業全体としてどの分野のスキルが不足しているのかまで把握することができます。
次に、スキルギャップを埋める資格試験を選定し、対策テキストやオンライン学習コンテンツを用意します。オデッセイ コミュニケーションズでは対策教材のご案内も承っております。
現在の取得済み人数はゼロでも全く構いません。その企業の未来にとって必要と考える資格であれば、短期・中長期の両面から地道に取り組んでいくほかありません。具体的には、次年度の目標は何名取得か、また3-5年後の取得目標人数は何名なのか、適切に検討された仮定をもとに明らかにすることが大切です。
企業の人材育成に最適なデジタル関連資格5つを厳選してご紹介します。
エクセル、ワード、パワーポイントなど、日々の業務に必要不可欠なマイクロソフトオフィス製品の利用スキルを証明する資格です。累計受験者数は2023年時点で500万人を突破しています。
いまや「社会インフラ」ともなっているオフィス製品ですが、自信を持って「使いこなせています」と答えられる人はどれくらいいるでしょうか? 企業によって求められるスキルレベルは異なりますが、最低限、MOSの一般レベルにあたる基本的な操作スキルを身につけておくことで、その後より高度な操作スキルを学ぶ際にも役立ちます。
MOS取得を通して基礎から体系的に学ぶことで、社員のスキルレベルが上がり、ベースラインがそろうという効果も大きいです。どんな高度なスキルであっても、最初の基礎固めが不十分だと、せっかくの育成施策が砂上の楼閣となりかねません。中長期的な基盤づくりと位置付けて、MOS取得を必須とする企業様も多くございます。企業のDXの土壌づくりとしてぜひご検討ください。
データ分析の”実践”に重点を置き、身近に活用できるエクセルを使用したデータ分析技能と、分析結果を正確に理解し、応用する能力を評価する資格です。
一般のビジネスパーソンも業務の中で「データ分析スキル」を求められるシーンが多くなってきました。データ分析と聞くと難しい印象がありますが、エクセルの分析ツールを使うことで、誰でも簡単にデータ分析できるようになります。
面倒な計算はすべてエクセルが処理してくれるので、数学に苦手意識がある人にこそ使いこなしてほしい機能が満載。また、業務で使用するPCにはほぼエクセルがインストールされていることから、「現場で役立つデータ分析を身につけたい」という方にもおすすめの資格です。
企業の皆さまからはデータサイエンティストなどのデジタル人材育成の第一歩として捉えられ、お問い合わせが増えています。
統計に関する知識や活用力を評価する資格です。レベルに応じて体系的な統計活用能力を認定します。
データサイエンティストは、主に「IT全般の知識」「統計学に関する知識」「ビジネススキル」の3つスキルが必要とされています。そのため、統計学に関する知識を体系的に学べる統計検定は、データサイエンティストを目指す方の第一歩としておすすめの資格です。また、AIの仕組みは統計学を含んだ数学知識が必要不可欠となるため、AIエンジニアを目指す方にもぜひ取得してほしい資格です。
VBAエキスパートは、エクセルやアクセスのマクロ・VBA(Visual Basic for Applicationsとは、エクセルやアクセスなどのマイクロソフトオフィス製品に搭載されているプログラミング言語)のスキルを証明する資格です。
VBAはルーティンワークの自動化や大量データの一括処理、業務システムの開発など、企業内で多岐にわたって活用できます。受験者数は2022年4月時点で累計5万人を超え、デジタル人材育成や業務効率化を目的に企業需要も高まっています。
また、VBAというプログラミング言語にエクセルという高機能UIが付いているという視点で捉えると、高機能UIが最初からフルセットで付いているという魅力的なプログラミング言語でもあります。初心者のプログラミング学習の導入として最適な資格です。
Pythonエンジニア認定試験は、オープンソースの汎用プログラミング言語Pythonの専門知識を評価する資格です。
Pythonは「構文がシンプルで扱いやすい」「豊富なライブラリに活用できる」という理由からプログラミング初心者でも学習しやすいといわれ、受験者も全体の約4割が非エンジニアの方々。AI技術の開発言語にもPythonが利用されていることもあり、近年ますます注目度が上がっています。リスキリングで新たなスキルを身につけたい方や、Pythonの資格を取得してSEとしてキャリアアップを目指す方におすすめの資格です。
以上、「そもそも人的資本とは?」から「人的資本開示におすすめの資格5選」を紹介しました。また、弊社の営業スタッフブログでは、時代に即したIT人材教育に役立つ記事も公開しています。より詳細な試験に関する情報や企業での活用事例、資格試験を活用したリスキリングに興味関心がありましたら、お気軽にオデッセイ コミュニケーションズ営業部までご相談ください。
こちらもおすすめ
資料のご請求や、団体受験、各種サービスについては営業部までお気軽にお問合せください。
株式会社オデッセイ コミュニケーションズ 営業部
TEL:03-5293-1885(平日9:00-17:30)
E-Mail:info@odyssey-com.co.jp